2009年度卒論講評(2010年3月)

2009年度星野ゼミ卒論講評

神谷常邦「アフガニスタンにおける武装解除~地域復興支援チーム(PRT)との関係が与えたもの~」は、日 本主導のもとに行われた武装・動員解除に際して地域復興支援チームがどのように作用したのか、両者の関連 性に注目してDDRの成功要因を考察している。長期的にはPRTがさらなる火種を残し現在の不安定な情勢に繋 がっているとの記述も妥当だろう。 

志堅原雅矢「欧州連合とトルコの比較考察~経済的分野と社会的分野の観点から~」は、トルコのEU加盟 が遅れている理由を経済的・社会的要因に注目して検討している。この間のトルコにおける国内改革の努力に も拘わらず、それが十分な結果を達成出来なかった点をデータをそろえて論証している。 

篠崎由実「安全保障における地域機構の可能性~国際連合のPKOの問題点から~」は、これまでの国連によ る平和構築活動における問題点を指摘して、国際安全保障の枠組みの中で地域機構が果たす事のできる役割を 探ろうとしている。意味のある問題意識ではあるが、検証可能な形での問題の設定に苦労したため、記述に深 みが欠けてしまったのが残念だ。 

新屋いずみ「ブルガリアの市場経済移行~市場経済化の進展度によるポーランドとの比較分析~」は、冷戦 終結後、市場経済化がスムーズに行われたポーランド(中東欧)と、行われなかったブルガリア(南東欧)と に注目し、比較分析によってその要因を探ろうとした。記述の枠組みも明快で必要な資料も集め、40頁の力 作に仕上がった。それだけに、市民社会の成熟度の差が原因だとの結論には肩透かしを食らった感が残る。 

田吹遥子「基地政治における地方の影響力~米軍再編の岩国基地と普天間基地の比較を通して~」は、在日 米軍基地をめぐる日米交渉において「地方政治」が一定の影響力を持った事を説得的に論証している。先行研 究の扱い方、問いと仮説の設定、事例の選択、理論的枠組の紹介、事例分析の構成など、これから卒論を書く 人たちのお手本になると思う。 

當銘玲里「なぜ少子化問題は解消されないか~90年代後半から2000年代前半の少子化対策を中心に~」 は、女性の高学歴化・社会進出による未婚化が少子化問題を深刻化させているという見解に異議を唱え、この 間の少子化対策の問題点を明らかにしている。「子ども・子育て応援プラン」を例に、関係省庁同士の「協 力」のもとで子育て家庭のニーズにそぐわない政策が実現していく過程が、興味深く描かれている。 

渡久地晶子「環境改善を利用した信頼醸成措置~ヨルダン川、ヌサ・テンガラの事例から~」は、ゼミ論に おけるイスラエル・パレスチナ問題への挑戦から発展し、国境を越える環境問題を敵対するもの同士がともに 管理することによる信頼醸成の可能性を探っている。大変興味深い提案だが、平和構築論、紛争理論、新しい 安全保障論と2つの事例分析とのバランスに不満が残る。 

富永亜矢「東アジアの奇跡の一般化とアフリカ大陸の発展の可能性」は、題名が示す通り、「東アジアの奇 跡」の教訓を条件の異なる他の地域にも適用できるまでに一般化し、それをアフリカ諸国に適用した場合に期 待される結果を明らかにしようとしている。無謀な試みのようにも思えるが、「希望はあるのだ」という筆者 の熱意が感じられる議論が展開されている。 

普天間貴恵「中国における環境政策」は、目覚ましい経済発展を遂げつつある中国が、1970年代という早 い時期に環境政策を打ち出したにも拘わらず、深刻な環境問題を引き起こしているのは何故かという、留学中 からの関心に応えるために書かれた。「環境保護システム」を構成する法体系、行政制度などの直接要因が準 備されても、環境意識、社会慣行などの間接要因に欠けるため、資金や技術が十分に活かされていないとの結 論は中庸を捉えている。 

本間友莉恵「発展途上国の天然資源ガバナンスにおける内外問題の変遷~資源ナショナリズムから内戦に至 るまで~」は、途上国における資源をめぐる紛争が、資源ナショナリズムの時代の対外問題から、国内におけ る資源アクセス競争へと変化し、内戦に至る可能性を高めていったとの見取り図を示している。内戦分岐点や 和平合意の政治経済的分析など興味深いアイデアが提出されているが、時間不足のためか、結論部分でそれが 十分に活かされていないのが惜しまれる。 

山城恵美「宗教が政治に与える影響力~民主化闘争における韓国教会の動き~」は、宗教と政治の関係を、 韓国の民主化闘争における教会の役割という文脈で検討している。政教分離型であるにも拘わらず、「社会に 仕える教会」との自己意識が継続しているとすれば、民族的危機の状況の中で再びその活動が活発化する可能 性があるとの記述は示唆的だ。 

提出された11編の論文の中から、まず新屋論文、田吹論文、渡久地論文、本間論文が優秀論文候補となっ た。結局、田吹論文を優秀論文に選ぶ事にしたが、その理由を書くスペースがもうない。読んでいただければ わかってもらえると思う。

 (2010年2月14日、ロンドンとキロロの間で) 

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