2006年度卒論総評(2007年3月)

まず、星野ゼミの卒論7編の内容を紹介する。 

神里憲慶「京都議定書交渉における国際交渉・国内批准ー2レベル・ゲームによるアメリカ外交の分析ー」は、ロバート・パットナムの2レベル・ゲームの分析枠組を環境問題に関する多国間交渉に適用した野心的な試みだ。「アメリカは、なぜ国際社会からの批判を受けてまで京都議定書を離脱したのだろうか」との問いに対して、これまで言われてきた「経済的デメリット」「ブッシュ大統領の反クリントン政策」「議定書の不備」といった答えとは別に、「途上国による極度の京都議定書への参加拒否」というもう一つの答えを提示している。
島村優「合衆国史における帝国の再検討」は、アメリカ合衆国の「帝国」論について、アフリカ系アメリカ人からの帝国主義批判など、これまであまり注目されてこなかった点に光を当てて、アメリカの「帝国」性の新たな姿を描き出そうとしている。冷戦後の唯一の超大国としてのアメリカが、その地位を利用して新たな世界支配へと乗り出そうとする状況を分析するのではなく、19世紀から20世紀までの帝国主義的、「帝国」的歴史の再検討を主眼とした意欲的な仕事である。
新里世沖「普天間基地返還合意をめぐる政策決定過程ースナイダーモデルによる1996SACO中間発表『危機型決定』分析ー」は、神里論文をしのぐ大作(58000)である。一般には橋本政権の成果と言われるSACO合意、特に「普天間基地返還」について、それが何故いまも実現に至っていないのかとの問いに対し、「危機的状況において政策決定した合意のための合意であったから」との答えを提示し、スナイダーモデルおよびハーマンの決定の類型を利用して、「危機型決定」との性格付けを論証している。
染川理恵「ルワンダ内戦ーペシミズムからの脱却」は、今もアフリカにまつわるネガティブなイメージ(貧困、飢餓、内戦、難民、ジェノサイド)の氾濫にNOと言っている。事例としては、映画「ホテル・ルワンダ」でも注目を浴びたルワンダ内戦を取り上げ、民族研究、ジェノサイド研究、アフリカにおける紛争の研究などの先行研究を押さえる中で、「長年の部族対立を背景に、隣人と隣人が殺し合う野蛮で残忍な紛争」であるというマスメディアのステレオ・タイプの誤りを正している。
比嘉千佳子「ストリートチルドレンの現状考察ーブラジルを軸にー」は、ストリートチルドレンがおかれている現状の記述と、彼らが生まれてくる背景の考察を行なっている。ストリートチルドレン問題の研究は、問題が深刻である一方、扱うべき課題が広範囲に及び、資料・データが十分ではないため、十分に進展していない。比嘉論文は、まず正確なストリートチルドレン像に向き合うところから、その研究を始めようとしている。
福里みゆき「日本主導の援助協調の可能性ーベトナム、タンザニアにおいての援助協調の場を通してー」は、なぜ援助協調が必要とされているのか(より効果的・効率的な援助のため)、どのような援助協調の手法があるのか(貧困削減戦略文書、セクタープログラム)を整理した上で、日本主導の援助協調の可能性を探るという視点から、援助協調に消極的とされる日本と積極的に推進しているとされる英国との、ベトナムおよびタンザニアにおける援助協調の事例を検討し、日本主導の援助協調に対する英国の姿勢を左右するのは「途上国におけるドナーとしてのプレゼンスの拡大に寄与するかどうか」であると結論づけている。
宮城友香「日系アメリカ人と日米関係ーアイデンティティへの影響」は、3年次の時のゼミ論を発展させたものだ。シアトル在住の日系二世映画プロデューサーがサンフランシスコの日系新聞に寄せた「日系アメリカ人が日米の架け橋になる必要はない」とのコラムをヒントに、各世代に見る日系アメリカ人の意識調査と、戦前から現在に至る「日米の架け橋」の事例とを整理し、日系アメリカ人の将来についていくつかの提案をしている。 

提出された7編の論文の中から、特に優秀だった論文として神里論文を挙げたい。論文の構成・テーマの設定が明確であること、事例についても理論についても先行研究を適切に利用していること、2レベル・ゲームの分析枠組を環境問題に関する多国間交渉に適用した野心的な試みであること、各アクターの主張や交渉の許容範囲の幅を図に整理している仕方に工夫が見られること、が選択の理由である。

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