卒論講評 2014年度

今回提出された10本の卒業論文を、以下、順に紹介する。

池味紗矢香「クォータ制からみる女性の政治参加促進韓国とドイツの事例を中心には、クオータ制に焦点を当てて日本での女性議員を増やすための施策を提言している。日本で女性政治家を増やす必要(その理由)を論じ、制度としてのクォータ制を概観した上で、韓国とドイツの事例における効果と問題点を検討し、日本においては比例代表部分での法的クォータ制が適していると結論づけている。論述に無理がなく、妥当な結論が導き出されたように感じられるが、結論部での記述に厚みがなく、「もっとしっかりと終止符を打てばよいのに」と物足りなさが残った。

伊波眞智子「移民の統合を阻む要因とは何かドイツとフランスにおける国民概念と統合政策の比較からは、日本でも議論になっている外国人労働者の受け入れに関して、ドイツにおける統合政策の失敗を説明しようとしている。トルコ系移民の多くがイスラム教徒であるという宗教や文化の違いだけでなく、ドイツの国民概念として血統主義が採用され同質的な民族性が要求されていることに注目し、フランスとの比較を試みた。だが、出生地主義をとっているフランスにおいても統合が進んでいるわけではなく、国民概念が統合政策の成否に及ぼす影響は少ないと結論づけている。

儀間まなみ「日米関係における沖縄の役割〜手段としての沖縄は、ゼミ論「在沖海兵隊に関する日米両政府の説明の正当性を問う」において「抑止力」論、「地理的優位性」論に説得力がないと論じたことを踏まえて、だとすると沖縄に米軍基地が存続し続けるのはなぜか、という問いに答えようとしている。その答えは、日米関係における沖縄の役割とは、日本防衛や米軍事施設への土地提供ではなく、日米安全保障体制を維持するための手段であり、沖縄返還、SACO合意においても、沖縄はそのための手段として利用された、というものだ。対抗仮説を検討する記述がもう少し欲しかった。

金城梨佳「貧困人口の削減と対外援助の偏り〜東アジア・太平洋地域と中南米・カリブ地域の比較を中心に〜」は、なぜミレニアム開発目標の達成度が地域によって大きく異なるのか、という問いを立てた。具体的には、2015年までに貧困人口を1990年から半減させるという目標について、東アジア・太平洋地域では超過達成できたのに、中南米・カリブ地域では達成できなかったことの原因を、先進諸国の経済援助の偏りに求めている。20枚以上の図表を駆使して論を進めているが、貧困(の原因)や援助効果の理論的研究を十分に利用できなかったことが惜しまれる。

桑江旬子「社会的絆は少年非行の抑止となりうるのか」は、表題の問いに答えるために、古典派犯罪学から実証的犯罪学まで、生物学的アプローチから社会学的アプローチまで、合理的選択理論から環境犯罪学まで、さまざまな理論を検討し、ハーシの社会的絆理論(われわれが犯罪や非行を行わないのは、愛着、投資、巻き込み、規範意識の4つの絆によってそれが抑制されているからである)にたどり着いた。この仮説が現代の日本においても妥当であるのか、内閣府の「非行原因に関する総合的調査研究」を用いて検討し、妥当であるとの結論を導き出しているが、論旨に肉付けをする十分な時間が残っていなかったようだ。

照屋愛乃「外国人家事労働者の権利と保護香港におけるフィリピン・インドネシア家事労働者の現状からの一考察は、日本の国家戦略特区においても受け入れると報道された外国人家事労働者について、その増加の原因、プッシュ要因・プル要因、送出国・受入国における法整備を検討し、東アジア特に香港においてインドネシアからの家事労働者の人数がフィリピンからのそれを上回ったことの理由を検討している。重要なテーマではあるが、上手に問いを立てられなかったため、論述の軸がぶれてしまった感が否めない。必要としていた資料が入手できなかったこともあるが、デザインに無理があったというべきかもしれない。

田龍「日中関係の悪化による両国経済への影響」は、国交正常化から40年以上にわたり相互依存関係を深めてきた日中両国が、2010年の尖閣諸島問題や反日デモにより関係を悪化させたことの経済的影響を探っている。とりわけ、日本の自動車産業、製造業、観光産業と中国の製造業、雇用状況に注目し、 日中関係の悪化は日本経済にダメージを与えただけでなく、中国にとってもマイナスの影響をもたらす可能性が高いと論じている。3年次のゼミ論から暖めてきたテーマだが、先行研究の紹介や分析枠組みの設定、文献の注記に不十分な点があるのが残念だ。

平安名常陸「過疎対策として定住性をたかめるもの沖縄県名護市二見以北地域を対象としては、沖縄における過疎地域へのU・Iターン者の定住を促す制度構築についての研究だ。統計データ、島根県・徳島県における事例、名護市地域づくりコーディネーターへのインタビューなどを材料にして、沖縄の過疎地域においては、空き家の再利用や定住促進住宅の整備を優先して行うことで移住・定住が促進されるだろうと結論づけている。興味深いテーマではあるが、少し無理をしてつくった仮説を検証できる枠組みとデータに欠けていたことが惜しまれる。

山内優貴「発展途上国における教育開発と児童労働問題の関係性の考察ミレニアム開発目標を通しては、ミレニアム開発目標の一つである初等教育の完全普及の達成に関して、特に、サブサハラ・アフリカ地域での未達成と同地域における児童労働問題との関連性に注目して、先行研究を整理している。「貧困→児童労働→低就学率→(次世代の)貧困」といった負の連鎖を指摘しているが、適切なデータを集めてこれを検証する作業に入ることはできなかった。貧困(の原因)についての理論研究の整理を踏まえた上で、その部分を論じるというスタンスがあれば、より豊かな議論ができただろう。

山城裕香「我が国のイラク復興支援におけるODA政策に影響した国益の考察」は、日本の政府開発援助供与における政府の意図を国益の観点から検討している。「決して財政状況に余裕のあるとは言えない当時の日本が、なぜイラク復興支援における巨額のODA支援を決定したのであろうか」との問いに答えるため、先行研究の力を借りて援助国にとっての国益のパターンを分析枠組とし、それぞれの妥当性を事例についての先行研究や当時の新聞記事を使って検討した。結論として、8パターン、11項目の国益のうち、この事例においては、長期的政治的利益(日米の同盟関係強化)、短期的政治的利益(イラクとの関係改善)、長期的商業的利益(安定的な石油資源確保)が妥当すると論じている。

以上10本の中から、山城論文を星野ゼミの優秀論文に選定した。池味論文も捨てがたかったが、山城論文は、問いの立て方に説得力があり、明確な分析枠組を示し、それを上手に事例に適用している点が優れていた。論文としての読み易さ(段落の構成と論旨の展開)では池味論文に軍配を上げたいが、結論部の説得力では山城論文が勝っていた。

(2015年2月9日、首里久場川町の自宅にて)
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