卒論講評 2013年度

今回提出された8本の卒業論文を、途上国に対する開発協力に関連する5本の論文とその他の3本の論文に分けて、以下、順に紹介する。

大城都「NGOと政府のより良い連携の形-日本と欧米諸国の比較から-」は、「日本におけるNGOとODAの連携が今も萌芽的段階にあるのはなぜか」「それをより発展させるためにはどのような支援策が有効か」を考えるため、アメリカ、カナダ、イギリスにおけるNGOと政府との連携のあり方と日本のそれとを比較している。比較の枠組は示されたが、それを具体的にどう使うかが今ひとつ明確ではなかったのが惜しまれる。

小潮川柚「ODAは民主化を推進させるのか」は、表題の問いに対し、ODAの成長促進効果、民主主義が経済成長に与える効果、そして経済成長・発展が民主化に与える効果について、先行研究の相関分析、回帰分析、パス解析をレビューし、日本のODAとフィリピンの経済成長および民主化の相関分析を行っている。意欲的な論文だが、先行研究やケースの取り上げ方、文献の注記に不十分な点があるのが残念だ。

下市七海「女子教育の普及による次の世代の子どもへの影響」は、女子教育の普及がもたらす次の世代への効果に着目し、「それが表れるためには女子教育の普及だけでなく経済力の向上が必要になる」「親の教育レベルによって次の世代の子どもに対する効果が異なる」という仮説を検討している。検証の対象とした14カ国について必要なデータを入手し比較検討したが、データを記述的にしか利用できなかったことが惜しまれる。

冨田歩実「ODA削減の真の要因-ODAの削減は経済状況の悪化によるのか-」は、表題の問いに答えるために、(1)ODA支出純額、ODA事業予算やODA一般会計予算、および(2)経済状況、財政状況や世論の動向を示す指標、の推移や両者の相関係数、相関図を検討している。ゼミの後輩を読者として想定した丁寧な論の展開がなされているが、予算決定に関する先行研究を十分にカバーできなかったことが残念だ。

宮城悠希「貧困削減戦略における社会関係資本の可能性」は、「社会関係資本は貧困削減に貢献するのか」という問いに挑戦している。「一気に解決されるわけではないが、先進国における貧困にも貢献する」「ある程度の発展段階を越えるとマイナスの相関が観察される」という2つの仮説を、日本の都道府県のデータを用いて検証し、前者は棄却され、後者のみが妥当だという結論に達した。先行研究をよくまとめているが、絶対的貧困と相対的貧困の区別やスティグリッツの逆U字型理論における因果の方向性などを再検討する時間が欲しかった。

以上の途上国支援に関連する論文の他に、以下の3つの論文が提出された。

島袋有理子「ベトナムにおける「国家」と「社会」の関係から見る民主化-ロッカンによる政治制度の基本的発展段階モデルを用いて-」は、ベトナムの民主化は完全に達成された訳ではないが「一定の達成」は見られる、また、国民の意思の汲み上げにおいて「社会からのプレッシャーに国家は適応できていない」と主張する。共に直感的に妥当な結論だが、それを理論と資料に基づいて丁寧に論述しているのが良い。民主化の理論に関する先行研究が幅広くカバーされ、法律の文言と制度の運用のズレの検討がされれば、より高い評価が得られただろう。

玉城友里江「社会運動の政策決定への影響-中学校社会科教科書採択問題をめぐる社会運動を事例に-」は、社会運動が教科書採択という決定にどのように影響を及ぼすのか、杉並区と八重山地区における「新しい歴史教科書をつくる会」系の教科書の採択阻止運動を比較分析している。先行研究を良く整理してレビューし、特に、社会運動に関するこれまでの理論的成果をこの論文ではどのように利用するのか書いている部分が優れている。運動関係者へのインタビューも実施し、興味深い枠組を提起しているが、資料的制約がなければより説得力のある結論が書けたと思う。

比屋根安哉「地球環境行政の政策過程分析-平成24年施行「地球温暖化対策のための税」を事例に-」は、2004年に発表されて以降8年もの間導入されずにきた環境税が何を契機として導入されるに至ったのかという関心に応えるため、「政権与党が党の方針とすること」「経産省が賛成に回ること」という2つの条件がそろうことが必要だったとの仮説を検討している。先行研究の主張を良く整理しただけでなく、「利益団体が賛成に動くこと」「省庁間で十分な利権が保障されること」など対立する議論への目配りも効いており、対抗仮説をつぶしていく手並みも悪くない。

以上8本の中から、比屋根論文を星野ゼミの優秀論文に選定した。他の論文も捨てがたかったが、論文の構成や注記の仕方が整っていて、先行研究を丁寧に押さえていること、それを論文の仮説と上手に関係付けている点が優れていた。そして何よりも対抗仮説を意識して、それが妥当しないことを論証しようとした点が、比屋根論文の特徴であり、ゼミの優秀論文に選ばれた理由である。

(2014年2月10日、研究室にて)

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