卒論講評 2011年度

 今年度の星野ゼミの卒論7編は政策(決定)過程の研究(5編)と制度変化についての研究(2編)の2つに分類できる。

大城和真「2007年世界金融危機における金融政策過程への一考察:キングダンの政策決定過程モデルの視座から」は、(1)他の多くの金融機関が救済を受けたにもかかわらず、なぜリーマン・ブラザーズは救済を受けられなかったのか、(2)大規模な資金拠出を必要とする住宅関連法案・金融安定化法案がなぜ制定されたのか、という2つの問いを取り上げた。前者については、強い官僚仮説、ゴミ缶仮説、官僚政治仮説、強い政治家仮説、制度限界仮説の5つの仮説を提示し、制度限界仮説に軍配を上げ、後者については、キングダンの「政策の窓モデル」に沿った記述の妥当性を主張している。

塩川美夏「臨時教育審議会の政策決定過程分析」は、中曽根政権期の臨教審における教育政策決定の過程を、細谷千博の「三脚柱モデル」によって分析している。「学力低下」「ゆとり教育」への関心から出発した塩川だが、この論文では学歴偏重ではない教育システムの必要を主張していた中曽根の改革に注目した。臨教審改革はなぜ失敗したのかとの問いに対し、自民党・官僚・財界の3つのエリート集団と首相を中心とする最終決定単位との関連に注目して、自民党内部の対立の故に「三脚柱」が機能せず、最終決定単位を支えることができなかったとの結論を導きだしている。

徳田隼一「日本の PKO 政策:PKO を巡る国内政治と決定過程の変遷」は、(1)PKO 派遣の決定過程を明らかにすること、(2)決定に影響を与えている要因を特定すること、という2つの目的を掲げ、政党政治仮説、官僚政治仮説、漸変的制度変化仮説の3つの仮説を提示し、PKO 協力法成立以前の国際協力を巡る政治過程と成立以降の6つの PKO 派遣の事例を取り上げて比較分析している。結論として、PKO 政策において政党政治の影響力は少なく、決定過程の変化は、徐々に変化してきた制度・環境の下での防衛官僚と外務官僚の影響力の増減によって説明される、と主張する。

西村望東「小泉政権期の終章権力:郵政民営化をめぐる改革推進の要因とは」は、小泉政権の郵政改革がなぜ抵抗勢力によって抑え込まれることなく実行できたのかとの問いを立て、各種の影響力資源の分布とその行使方法の観点から分析を進める。特に、小泉首相が従来の自民党の派閥政治や官僚中心の政策決定を打破し、内閣が中心となって政策を遂行することができたとの先行研究の主張に着目し、それを可能にした制度的変化と小泉首相特有の政治運営にその答えを求めている。

古川麻美「中国政策決定過程のアクター分析:エネルギー政策を事例に」は、現代中国における政策決定過程に見られる変化を、エネルギー政策・物流政策に注目して、江沢民政権と胡錦涛政権とを比較することによって描きだしている。政策過程に登場してくるアクターが多様化していることを指摘し、計画経済から市場経済の競争主義への移行が政策過程への参加の窓口を開き、政治過程の多元化をもたらしたのだと結論づけている。

 以上5編が政策(決定)過程に注目した研究であるのに対し、以下の2編は制度の変化に注目した研究である。 

赤嶺朱香「沖縄の駐在保健婦制度:制度発展にみる駐在保健婦制度の廃止」は、駐在保健婦制度に関する先行研究において復帰以降の廃止までの研究が少ないことを指摘し、評価の高いとされる沖縄の駐在保健婦制度がなぜ廃止に至ったのかとの問いを設定した。制度発展の理論における制度転換戦略のマトリクス取り上げてこれを記述の枠組として利用し、地域保健法の制定によって法的に不可能になったとの通説に加えて、制度発展に伴う制度の意義の希薄化も廃止に貢献したとの結論を導きだしている。

屋宜宣緒「台湾における政権交代と民主主義の定着:リンスとステパンの理論による分析」は、 台湾に民主主義は定着しているのかとの問いに対し、リンスとステパンの民主化の理論を適用して分析をしている。彼らの定義に沿って台湾政治の現実を点検し、2000年の総統選挙における政権交代を経た現在、民主主義は「街で唯一のゲーム」となっており、移行の完了についても、民主主義の定着についても、肯定的に答えることができると結論づけている。

 提出された7編の論文の内から、特に優秀だった論文として徳田論文を挙げたい。論文の構成・テーマの設定が明解であること、先行研究の検討を通して仮説と分析枠組の設定に成功していること、取り上げた事例の数が多くそのバランスがとれていること、分析枠組の事例への適用が一貫しており、そのことが結論の妥当性に結びついていること、が選択の理由である。

 (2012年2月、「米、辺野古移設断念」の活字が躍った日に)

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