卒論講評 2008年度

今回提出された5本の卒業論文を以下、順に紹介する。

兼島優「ミャンマー民主化考察-2007年民主化運動を通して-」は、「ミャンマーはなぜ民主化をなしえないのか」という問いを出発点として、これまでの民主化理論をレビューし、とりわけ国際的要因に注目して、ミャンマー民主化失敗の要因を探ろうとした。テーマとの格闘の後が随所に見られるが、分析枠組に国際的要因を明示的に組み入れることができず、それ故に、2007年の民主化運動の分析においても、ここからの切り込みを深めることができなかった点が残念である。

管清祥「日中関係と愛国主義教育」は、「未来志向の日中関係」を築くために、日本国内で批判の的となった中国の愛国主義教育の実態にせまり、山東省青島市におけるアンケート調査(200人)を通して、「愛国主義教育は中国人の対日認識にどのような影響を及ぼしているか」明らかにしようとした。問題意識の切実さ、自前のデータの分析などが評価できる反面、社会調査手法や統計分析手法をより有効に利用できたはずだ。

桃原徹也「オスロプロセスにおける国際規範の分析」は、クラスター爆弾禁止条約の形成過程(オスロ・プロセス)に注目し、「国際規範はなぜ国家に影響を及ぼすのか、その影響力は何に規定されるのか、国家に影響を及ぼすのはどのような過程によるのか、どのような国家が影響されやすいのか」といった一連の問いに答えることで、国際規範が国際社会に影響を及ぼしている様相を解明しようとした。リアリズムとコンストラクティビズムの対比など重厚な論文に仕上がったが、外国語文献の扱いなどに課題を残した。

仲間葵「クリントン政権の対中国政策-対中最恵国待遇(MFN)と人権問題-」は、大統領選挙キャンペーンにおいて「ブッシュ Sr. 政権」の対中国政策を「弱腰」と批判していたクリントン候補が、政権獲得後、関与政策に転換し、人権問題と MFN 更新問題とを切り離して行く過程を、ビジネス団体のロビーイングに注目して理解しようとしている。それ自体は妥当な仮説ではあるが、対抗仮説への言及やその否定が不十分なため、議論が予定調和的になってしまった点が残念だ。

山川華恵「国連平和維持活動における出口戦略について-東ティモール PKO の事例から-」は、2006年、国連治安維持部隊の撤退後に紛争が再発した東ティモールの事例に注目して、「国連ミッション延長の声が上がっている中で、なぜ国連安保理は PKO 撤退決議をあげたのか」との問いに答えようとしている。治安状況や民族自決プロセスなどを十分に考慮した合理的判断だった、国連本部と現地職員との利害関心のギャップを抱えた組織の一貫性に欠けた決定であった、国家間の国益や思惑の影響を受けた政治的な決定であった、という3つの仮説のうち、前二者について検討している。国際機構の決定にアリソン・モデルを適用する意欲的な試みであるが、適用の仕方にさらなる洗練が期待される。

以上5本の中から、桃原論文を星野ゼミの優秀論文に選定した。管論文も山川論文も捨てがたかったが、問題設定、分析枠組、事例分析、どこをとっても水準をクリアしていることが、桃原論文を選んだ理由である。

(2009年2月11日、シンガポール、シャンギ空港にて)

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