卒論講評 2005年度

まず、星野ゼミの卒論9編の内容を紹介する。

上里理奈「アフガニスタンの平和構築における難民帰還の取り組み」は、ポスト冷戦の国際社会において注目されている国連の平和構築活動の中でUNHCRがどのように難民問題に対処しているかを、アフガニスタンの事例(2001ー05)について検討し、難民参加型の平和構築活動にむけて資金・組織など国際社会の支援のあり方の改善が必要であることを論じている。

大城隆司「ブロンクス・カルチャー~ロビン・コーエンの『文化ディアスポラ』概念の検証~」は、「ヒップホップ・カルチャーはディアスポラの作り出した文化なのか」と問い、具体的には、ヒップホップの4つの要素(ラップ、ブレイキング、グラフィティ、DJ)のうちブレイキング/Bボーイを取り上げ、その歴史・スタイル・社会環境を検討することで、「祖国」から離散した「ディアスポラ」という概念の限界を指摘している。

新屋希美「天安門事件当時の統治エリートと対抗エリート」は、「1989年の天安門事件当時、なぜ中国が民主主義体制に移行しなかったのか」という問いをたて、シュミッター&オドンネルの権威主義体制からの移行の研究を基礎にした武田康裕の「体制移行の力学」モデルにしたがって、武田が利用できなかった『天安門文書』を利用して分析をすすめ、反体制穏健派より急進派が強かったこと、軍指導部が体制維持派を支持し続けたことなど、「改革型」の移行に失敗した要因を整理している。

高田和加子「北朝鮮による南進計画の計画過程と遂行まで~政策決定者の認識を中心に~」(前期末提出)は、ステファン・ヴァン=エヴェラの政策決定者の認識に焦点を当てた戦争原因論を用いて、北朝鮮の政策決定者(特に金日成)がどのように情勢を認識し1950年6月25日の「南進」に至る決定をおこなったのかを検討し、5つの仮説(勝利への誤った期待、先制行動の優位、パワー変動、累積的資源、攻撃優位・制御優位理論)の検証・整理を行っている。

仲井間郁江「米国によるイラク攻撃決定過程の特徴を探る~花井モデルから導いた仮説の検証を通して~」は、政策決定過程分析の一般的なモデルを出発点として、花井等『新外交政策論』から決定過程の特徴に関する13の仮説を導き出し、2003年3月のイラク攻撃決定に至るアメリカの政策決定過程の特徴を、ボブ・ウッドワード『攻撃計画』などの資料をもとに検討し、整理している。

永村絵理「アフリカ地域における相互依存を根拠とした日本の開発援助の妥当性」は、援助供与の理由付けを問い直している。具体的には、日本とアフリカ諸国との相互依存関係の存在を検証することで、日本のODA政策における相互依存性の認識が、2000年以降増加しつつある日本の対アフリカ援助においても妥当であるのかどうか、検討している。

宮尾周子「日本の難民条約加入過程~国会会議録を中心にして~」は、「その策定にそもそも無理がある」難民条約および議定書になぜ日本が加入し国内の法制度を整えていったのかとの問いに、1962年から1981年の国会会議録の分析を通して、難民条約への加入のきっかけは国外からの圧力であったが、外務省・厚生省・法務省などの難民問題に対する認識の違いから、加入までに時間がかかり不鮮明な制度を制定してしまった、との答えを導いている。

山田直之「80年代韓国における権威主義体制と民主化闘争~民主化過程検証を中心に~」は、シュミッター&オドンネルやハンチントンの権威主義体制からの民主化移行の研究を参考にしつつ、経済的要因、国際環境、体制内部における変化、政権の正当性、社会文化的変動、そしてグローバル・ネットワークという6つの民主化移行要因に注目して80年代韓国の事例を検証し、政権の正当性に関わる光州事件の重要性、下からの民主化の視角の必要性を論じている。

雪田朋見「地方自治体における環境と経済の両立~ドイツ・フライブルク市の事例~」は、「環境の保全を唱えつつ、経済的にも住民を不安にさせないような街づくりを実現させるには何が必要なのか」を、国際政治経済学におけるレジーム論の枠組みを参照しながら、ドイツ・フライブルク市の事例について検討し、日本の運動にとっての教訓を導き出している。

以上の9編の論文について、以下5つの論文の内容に関わるチェック項目(75%)とさらに5つの記述・形式に関わるチェック項目(25%)を設けて評価した。

(1)タイトル・目次と論文の内容一致しているか。論文の構成が整っているか。(2)「テーマとねらい」およびテーマ選択の理由が明確になっているか。(3)テーマについて(事例について、理論について)先行研究・文献の調査は十分か。(4)資料・データの提示は必要十分か。資料を十分に理解し、その上で自分の解釈を加えているか。(5)記述・分析は論理的か。結論に説得力があるか。以上が内容に関わる項目である。

(6)正確な日本語でわかりやすく書かれているか。誤字・脱字はないか。(7)表記の基本ルールに従っているか。(8)自分の話と他人の話をきちんと区別しているか。(9)必要な注があるか。注の書き方は適切か。(10)参考文献の一覧があるか。参考文献の書き方は適切か。以上が記述・形式に関わる項目である。

提出された9編の論文の中から、特に優秀だった論文として高田論文を挙げたい。論文の構成・テーマの設定が明確であること、事例についての先行研究を十分利用していること、Cold War International History Project の新しい資料をはじめ英語・中国語文献を上手に利用していること、仮説検証の結果を時間軸上で整理し仮説間の因果関係を整理している仕方にオリジナリティを発揮していること、が選択の理由である。

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