卒論講評 2004年度

星野ゼミの卒論7編は大きく事例研究と理論研究の2つに分類できる。以下の4編は、より一般的な分析の枠組みを提示した上で、それを具体的な事例にあてはめた論文だ。

上原さつき「紛争後復興支援の枠組み」は、冷戦後特に注目されるようになった紛争後の復興支援をテーマに、その枠組みを整理して東ティモールの事例に適用し、復興支援に取り組む国際社会にとっての課題(ドナー間の連携、緊急援助から開発援助へ移行する際のギャップ、現地の人材育成)を指摘した。

大城三太「小泉訪朝以後の対北朝鮮認識とイラク戦争前後の対イラク認識ーグラッドストーンモデルを検証するー」は、「敵意という感情が政策決定において大きな影響を及ぼすのではないか」と考えて、グラッドストーンの心理学的なモデルを表題の2つの事例に適用し、10個の仮説が比較的良くあてはまっていることを確認した。

翁長若菜「請求権をめぐる日韓交渉 1951-1962年ー2レベルゲームによる分析ー」は、表題の事例にパットナムの2レベル・ゲームのモデルを適用し、モデルで挙げられている命題を補強すると同時に、従来安全保障や経済などの国際的要因から説明されることの多かった日韓交渉における国内政治要因の重要性を論証した。

瑞慶山陽子「韓ソ/韓中国交正常化過程の比較ー接触回路の違いを通してー」は、これまでほとんど取り上げられてこなかった表題の比較分析に取り組み、「非正式接触者」の概念を利用して2つの国交正常化交渉の過程を検討し、アクターの違いに注目して交渉過程の違いを説明した。

以上4編を事例研究と呼ぶなら、以下の3編は理論研究(理論、理念、言葉の力によってテーマに迫る)と呼ぶことができる。

当銘博樹「日本の安全保障体制についての一考察 -アジア・太平洋地域の多国間安全保障体制-」は、安全保障の理論、日本の安全保障体制についての先行研究を踏まえて、2001年9・11テロ以降のアジア・太平洋地域での国際環境変化を前提に、今後日本がとるべき安全保障政策は多国間安全保障体制の構築に向けた努力であると論じている。現実主義の二国間安保堅持の「牙城」に丁寧な批判を加えている。

比嘉基「沖縄における『平和』の再定義ーガルトゥング平和学の視点からー」は、沖縄で語られる「平和」という概念の中味に着目し、ヨハン・ガルトゥングの平和学におけるキー概念(直接的暴力、構造的暴力、文化的暴力)を沖縄の文脈で再構成し、<基地暴力>の分析、沖縄の「平和」の類型化へと議論を進めている。沖縄における「平和」を求める動きが良く整理され、それがどのような射程を持つべきかを論ずる道具を提供している。

比嘉陽子「九条神話ー特殊日本的平和観念と空想的平和主義からの脱却ー」は、日本国憲法の核心を前文および9条に表現された「非武装=平和という考え方」と捉え、これを「特殊日本的平和観念」と呼んでいる。この特殊日本的平和観念がいかに空想的な平和主義であるのかを議論し、その弊害を指摘した上で、9条改正私案を提示し、「改憲される日は近い」と結んでいる。

以上の7編の論文について、以下5つの論文の内容に関わるチェック項目(75%)とさらに5つの記述・形式に関わるチェック項目(25%)を設けて評価した。

(1)目次を見て論文の内容がわかるか。論文の構成が整っているか。(2)「テーマとねらい」およびテーマ選択の理由が明確になっているか。(3)テーマについて(事例について、理論について)先行研究・文献の調査は十分か。(4)資料・データの提示は必要十分か。資料を十分に理解し,その上で自分の解釈を加えているか。(5)記述・分析は論理的か。結論に説得力があるか。以上が内容に関わる項目である。

(6)正確な日本語でわかりやすく書かれているか。誤字,脱字はないか。(7)表記の基本ルールに従っているか。(8)自分の話と他人の話をきちんと区別しているか。(9)必要な注があるか。注の書き方は適切か。(10)参考文献表があるか。参考文献の書き方は適切か。以上が記述・形式に関わる項目である。

提出された7編の論文の内から、特に優秀だった論文として翁長論文を挙げたい。論文の構成・テーマの設定が明快であること、先行研究を通してモデルの長所・短所をよく整理していること、請求権に関わる日韓交渉の過程の記述が必要十分であること、事例研究の結果としてモデルについても事例についても有意義な知見をひき出していること、が選択の理由である。

Comments